最高裁判所第一小法廷 昭和59年(し)29号 決定 1984年3月29日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
記録によると、申立人に対する刑の執行猶予の言渡取消請求事件につき、弁護人中田寿彦は、昭和五九年二月二七日の第三回口頭弁論期日において、同事件の審理を担当する名古屋地方裁判所裁判官卯木誠を忌避する旨の申立をしたところ、同裁判官は、直ちに右忌避申立は手続を遅延させる目的のみでなされたことの明らかな申立であるとしてこれを却下する旨の裁判をし、引き続き審理の上、同年三月六日の第四回口頭弁論期日において、右事件につき刑の執行猶予取消決定を宣告し、同月九日右決定に対し同弁護人から即時抗告の申立がなされたところ、同裁判官は、同月一二日右申立は理由なきものと思料する旨の意見書を付して右申立書等を名古屋高等裁判所に送付したことが明らかである。
ところで、元来裁判官忌避申立却下の裁判は、当該裁判官が審理を継続している限りにおいてこれを取り消す実益があるものと解するのが相当であるところ、本件経過は、前段掲記のとおりであるから、原裁判、ひいて本件忌避申立却下の裁判を取り消す実益がすでに失われていることが明らかである(最高裁昭和三六年(し)第四四号同年一〇月三一日第三小法廷決定・裁判集刑事一三九号八一七頁、最高裁昭和三九年(し)第五二号同年九月二九日第三小法廷決定・裁判集刑事一五二号九八七頁参照)。したがって、本件抗告の申立は、現在においてはもはや法律上の利益を欠き不適法というべきである。
よって、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 藤崎萬里 裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一 裁判官 角田禮次郎 裁判官 矢口洪一)